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昼食補助が7,500円に拡大-社長が押さえるべき「50%ルール」

  • 6月16日
  • 読了時間: 6分

食事補助の非課税限度額引上げと中小企業における実務対応


令和8年4月1日以後に支給する食事から、役員又は使用人に対する食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額が、従来の月額3,500円から月額7,500円に引き上げられました。国税庁も、令和8年3月31日付で関係通達を改正し、この取扱いを明らかにしています。(国税庁)

中小企業の経営者にとって、この改正は単なる税務上の細かな変更ではありません。物価上昇、人材確保、従業員満足度の向上といった経営課題を考えるうえで、福利厚生制度を見直す一つの契機になるものと考えています。

ただし、ここで注意しなければならないのは、「月7,500円までなら会社が自由に昼食代を負担してよい」という意味ではないということです。税務上、給与課税されないためには、一定の要件を満たす必要があります。


食事補助が非課税となるための要件


役員又は使用人に対して食事を支給する場合、その経済的利益が給与として課税されないためには、次の二つの要件をいずれも満たす必要があります。

第一に、役員又は使用人が、食事の価額の半分以上を負担していることです。

第二に、食事の価額から役員又は使用人の負担額を控除した会社負担額が、1か月当たり7,500円以下であることです。この7,500円の判定は、消費税及び地方消費税を除いた金額で行うこととされています。(国税庁)

この二つの要件のうち、実務上特に重要なのは、従業員が食事の価額の50%以上を負担しているかどうかです。

例えば、1か月の昼食代が税抜13,000円であった場合、従業員から6,500円以上を徴収し、会社負担額が6,500円であれば、原則として非課税の範囲に収まります。

一方で、会社が従業員の昼食代を全額負担してしまうと、たとえ会社負担額が7,500円以下であっても、従業員が50%以上を負担していないため、非課税要件を満たしません。この場合、会社が負担した金額は給与として課税される可能性があります。

ここは、経営者が誤解しやすいところです。

「従業員のために良かれと思って会社が負担した」という気持ちは理解できます。しかし、税務は気持ちではなく、制度の要件に基づいて判断されます。したがって、福利厚生制度として適正に運用するためには、制度設計の段階で税務上の要件を正確に押さえておく必要があります。


現金支給は原則として給与課税となる


もう一つ注意すべき点は、食事補助を現金で支給する場合です。

食事を現物で支給するのではなく、「昼食手当」などの名目で現金を支給した場合には、原則としてその全額が給与として課税されます。国税庁も、深夜勤務者に対して夜食の現物支給ができない場合に一定額以下の金銭を支給する場合などを除き、現金による食事代補助は給与課税の対象になるとしています。(国税庁)

中小企業の実務では、ここで誤りが生じやすいものです。

例えば、会社が従業員に対して毎月7,500円を「昼食手当」として給与と一緒に支給し、会計処理上は福利厚生費として処理していたとします。しかし、実態が現金支給であれば、税務上は給与として取り扱われる可能性が高くなります。

税務調査においては、勘定科目の名称だけで判断されるわけではありません。福利厚生費という科目で処理していても、その実態が給与性を有するものであれば、給与課税の問題が生じます。

したがって、食事補助制度を導入する場合には、弁当の支給、契約食堂の利用、食事券や一定の管理が可能なサービスの活用など、現物支給として整理しやすい形を検討することが重要です。


制度導入時に経営者が確認すべきこと


今回の改正を受けて、食事補助制度を導入又は見直しする会社も増えると思います。その際、私は少なくとも次の点を確認すべきだと考えています。

まず、制度の目的を明確にすることです。

食事補助を導入する目的が、従業員の定着率向上なのか、採用力の強化なのか、物価上昇に対する実質的な支援なのかによって、制度の設計は変わります。福利厚生は、単に「他社もやっているから」という理由で始めるものではありません。会社として、どのような人材を大切にしたいのか、どのような働く環境を整えたいのかという経営方針と結びつけて考えるべきものです。

次に、従業員負担額の徴収方法を明確にすることです。

非課税要件を満たすためには、従業員が食事の価額の半分以上を実際に負担している必要があります。そのため、給与天引き、現金徴収、精算方式など、どのような方法で従業員負担額を徴収するのかを明確にし、記録として残しておく必要があります。

さらに、月額7,500円の判定を継続的に管理できる仕組みも必要です。

1回ごとの金額が小さくても、月単位で集計すると限度額を超えることがあります。また、弁当の提供と契約食堂の利用が混在する場合には、消費税率の違いにも留意しなければなりません。国税庁も、軽減税率8%が適用される弁当と、標準税率10%が適用される食堂利用がある場合の判定例を示しています。(国税庁)

このような細かな管理を曖昧にしていると、せっかくの福利厚生制度が、後になって給与課税の問題を生むことになります。


中小企業における活用の考え方


中小企業においては、大企業のように大規模な福利厚生制度を整備することは容易ではありません。しかし、食事補助のような制度は、比較的小さな負担で従業員の満足度を高めることができる可能性があります。

例えば、従業員20名の会社で、会社が1人当たり月7,000円の食事補助を行った場合、月額の会社負担は14万円、年間では168万円です。この金額をどう見るかは会社によって異なりますが、採用広告費や離職による採用・教育コストを考えれば、十分に検討に値する支出である場合もあります。

特に、現場勤務が多い会社、昼食時間が不規則になりやすい会社、若い従業員の比率が高い会社では、食事補助は従業員に実感されやすい福利厚生となります。

ただし、福利厚生制度は、一度導入すると廃止しにくい性格があります。したがって、導入時には、会社の資金繰り、今後の人件費負担、対象者の範囲、運用事務の負担などを含めて検討する必要があります。

税務上認められるからといって、すぐに導入すべきとは限りません。経営判断として、費用対効果を見極めることが重要です。


福利厚生は「善意」ではなく「制度」として設計する


私は、今回の改正は中小企業にとって良い機会だと思っています。

賃上げには社会保険料や将来の固定費増加という問題があります。一方、食事補助は、適正に制度設計すれば、従業員にとっても会社にとっても納得感のある福利厚生になり得ます。

しかし、ここで大切なのは、会社の善意を税務上安全な制度に落とし込むことです。

経営者が「社員のために」と思って行ったことでも、制度設計が不十分であれば、税務上は給与課税となります。逆に、要件を正しく理解し、社内規程を整え、従業員負担額の徴収と月額管理を適切に行えば、会社の負担を福利厚生として有効に活用することができます。

経営においては、思いだけでは足りません。思いを制度にし、制度を運用に落とし込み、運用を記録として残す。ここまで行って初めて、税務上も経営上も意味のある仕組みになります。

今回の食事補助の非課税限度額引上げは、単なる税務改正ではなく、会社の福利厚生を見直すきっかけです。

従業員の生活を支え、働く環境を整え、会社への信頼を高める。そのような制度として活用できるかどうかは、社長の考え方と設計次第です。

「7,500円まで使えるようになった」と見るのではなく、「この制度を自社の経営にどう活かすか」と考えることが、経営者に求められる視点ではないかと思います。

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