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「売上は幻、キャッシュは現実」北の達人・木下社長に学ぶ“資金耐久力”のつくり方

以前のblogで「貸借対照表(B/S)」の重要性と、現預金を最大化するために「借入金」を武器にするというお話をしました。

この「キャッシュ(現預金)こそが全て」という考え方をさらに深めるために、今回は、株式会社北の達人コーポレーションの木下勝寿社長が提唱する“資金耐久力”の捉え方を手掛かりに、倒産確率を下げるための実務的な論点を整理します。


木下社長が引用する言葉に、経営の現場で極めて実務的な示唆があります。


「売上は幻、利益は理性、キャッシュは現実」


帳簿上、売上が立っていても利益が出ていても、手元に現金がなければ会社は倒れます。逆に、赤字でも資金があれば当面は生き延びられる。

資金繰りの観点では、これが“現実”です。


最強の指標「無収入寿命」――ただし定義を誤ると危険



木下社長が提唱する独自指標に、「無収入寿命」があります。

これは、次の問いに答えるための指標です。


「もし明日、売上がゼロになったとしても、会社は何か月“現状維持”できるか」


ここで重要なのは、無収入寿命が単なる「現預金の多寡」を見る指標ではない点です。考え方としては、借金などを差し引いた“純手元資金”で、家賃・給料等の“月額固定費”を何か月賄えるかに近い整理になります。


(イメージ)


  • 無収入寿命(ネット型)=(手元資金 − 有利子負債等)÷ 月額固定費



この「ネット(差引)」の視点が入ることで、見せかけの安全度を排除し、“本当の耐久力”が見えるようになります。無収入寿命という言葉には、経営者としての覚悟が込められている、と私は理解しています。


「手元流動性」との混同を避ける


実務上、「手元流動性」という言葉は、売上高に対する現金等の比率として用いられることが多く、固定費で割って“月数”を見る無収入寿命とは分母が異なります。

そのため、無収入寿命を「一般的には手元流動性とも呼ばれる」と同義で扱うと、読み手に誤解を生む可能性があります。


本稿では混同を避けるため、“固定費ベースで何か月もつか”を表す指標として「無収入寿命」を扱い、別途、借入とも整合する形で“現預金の厚み”を確認する指標を提示します。


借入で「寿命」を買えるのは、別の指標である


ここが実務上の最大のポイントです。

無収入寿命を上のネット型(差引)で捉える場合、借入によって現預金が増えても、同時に負債も増えるため、差引の資金余力は基本的に増えません。

したがって、ネット型の無収入寿命を「借入で伸ばす」と説明すると、ロジックが崩れやすくなります。


一方で、私が前回お話しした「借入金は武器」という主張は撤回しません。借入が効くのは、現場で極めて使い勝手の良い、もう一つの指標――私はこれを 「資金耐久月数(グロス型)」 と呼びます――に対してです。


(イメージ)


  • 資金耐久月数(グロス型)= 現預金 ÷ 月額固定費



この指標は、言い換えるとこうです。


「売上が止まったとしても、手元の現預金で固定費を何か月払えるか」


こちらは、借入によって現預金が増えるため、耐久月数を延ばすことが可能です。

つまり借入は、“倒産確率を下げるための時間(タイムバッファ)を買う手段”として位置づけると、実務上の説明が一気に明確になります。


「無借金」の理想と、「借入」という現実解


北の達人コーポレーションは、手元資金が厚く、財務体質が強い会社として知られます。木下社長は「高収益」という手段で、ネット型の無収入寿命を伸ばしてきた、と整理できるでしょう。


しかし、我々中小企業の多くは、最初から北の達人のような高収益体質を持っているわけではありません。

自社の利益だけで、固定費の24か月分の現預金を積み上げようとすれば、10年単位の時間がかかるケースも珍しくありません。その間に外部ショック(不況、主要顧客の毀損、原価高騰、災害等)が来れば、資金繰りは一気に危険水域に入ります。



借入金で「時間」を買う――事業継続(BCP)の資金設計


売上が急減する局面で企業が倒れる主因は、利益率ではなく資金ショートです。

危機対応で最も重要なのは「いかに早く回復するか」以前に、回復まで生き残る時間を確保できるかにあります。


この“時間”を財務で可視化したものが、前述の資金耐久月数(グロス型)です。

固定費(人件費・家賃・リース・システム費等)を賄える月数が長いほど、次の意思決定が可能になります。


  • 値引き競争に巻き込まれず、採算を守ったまま立て直す

  • 採用・教育を止めず、組織能力を毀損しない

  • 重点顧客・重点商品の維持に集中し、選択と集中を徹底する

  • 不採算事業の整理・撤退を、資金繰りの恐怖ではなく合理性で判断する



成長途中の企業にとっては、自己資金だけでこのバッファを積み上げるのに時間がかかります。

そこで、財務体質と返済能力の範囲内で借入を活用して現預金を厚くし、「危機対応のための時間」を先に確保する――これが実務的な資金設計です。


もちろん借入は固定費を押し上げる側面(利息・返済負担)を持ちます。

だからこそ重要なのは、借入を“精神論”で語ることではなく、次の2指標を併用して数値で管理することです。


  1. ネット型:無収入寿命(差引で見た本当の耐久力)

  2. グロス型:資金耐久月数(即応力=時間バッファ)


まとめ:目的は「資金耐久力の最大化」――手段を混同しない



木下社長は「高収益」という手段で、私は「銀行借入」という手段も含めて提案していますが、目指している山頂は同じです。


  • 会社を絶対に潰さないこと

  • そのために、手元の資金(キャッシュ)を厚くし、耐久力を可視化すること



皆様の会社には、今、何か月分の「資金耐久力」がありますか。

決算書(B/S)を見直し、固定費の構造を点検し、必要であれば銀行借入も含めて“時間を買う”判断をご一緒に検討していきましょう。


借金は怖いものではありません。

ただし、指標を正しく定義し、目的(倒産確率の低下)に沿って運用する限りにおいて、借入は「命綱」になり得ます。


足立知弘

いちご会計事務所 所長

公認会計士・税理士

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