役員報酬を増やす前に、社長が決めるべきこと
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会社に利益が出はじめると、社長は必ず一度は悩みます。
「役員報酬をもっと取りたい」
「いや、会社にお金を残した方がいいのではないか」
「税金を払うくらいなら、何か対策をした方が得ではないか」
この三つは、どれも経営者の頭に浮かぶ自然な問いです。
ただ私は、この問いの立て方そのものを、少し変えた方がよいと思っています。
結論から言えば、役員報酬・内部留保・利益の繰り延べは、どれが正しいかを先に決める話ではありません。
先に決めるべきは、会社をどこへ持っていくのかです。
中小企業庁の2025年版中小企業白書を見ても、足元では仕入価格の高止まりが続く一方、価格転嫁は進んできたとはいえ、コスト全般の転嫁率は直近でも「5割程度」にとどまっています。つまり、多くの中小企業は「黒字なら安心」というほど、まだ楽な経営環境ではありません。日本銀行も2025年4月の金融システムレポートで、大企業より中小企業の収益改善ペースは緩やかであり、経営改善支援の重要性が増していると指摘しています。
だからこそ、利益が出たときに最初に考えるべきことは、「いくら節税できるか」ではなく、この利益を、会社の体力づくりにどう使うかなのです。
私は、役員報酬は一番最後に決めるものだと思っています。
先にあるのは、売上計画であり、人件費計画であり、資金繰り計画です。
特に中小企業では、まず守るべきは社員の給与と資金繰りです。
社員の給料が遅れる会社は、一気に信用を失います。
仕入先への支払いが苦しくなる会社も、同じです。
社長の報酬は、極端に言えば後からでも調整を考えられますが、現場を支える人たちへの支払いはそうはいきません。
ここを飛ばして、「今年は利益が出たから社長の取り分を増やそう」という順番になると、経営はだんだん不安定になります。
これは感情論ではなく、財務の順番の問題です。
銀行は、社長が思っている以上に、利益の質を見ています。
金融庁は近年、事業性に着目した融資を進める方針を一層明確にしており、単なる担保や形式だけでなく、事業の内容や将来性をどう見ていくかを重視しています。とはいえ、その土台にあるのは、やはり利益を出す力、返済できる力、計画を持っているかです。日本銀行も、営業赤字や財務面の脆弱性を抱える企業は依然として注意が必要だと示しています。
ですから、利益を意図的に薄く見せることや、計画性のない利益の繰り延べは、短期的には気分がよくても、長期的には銀行との関係を難しくすることがあります。
もちろん、私は利益の繰り延べそれ自体を、全面否定するつもりはありません。
明確な出口があり、5年後、10年後を見据えた資本政策や事業承継、設備投資計画の中で行うのであれば、一つの経営判断です。
しかし、計画のない利益の繰り延べは、たいてい後で苦しくなります。
なぜなら、社長の頭の中に「いざとなれば何とかなる」という感覚が生まれやすいからです。
この感覚が危ないのです。
税金は、確かに重い。
できれば払いたくない。
経営者なら誰でもそう思います。
ただ、納税して自己資本を厚くすることは、見方を変えれば会社の信用を買っているとも言えます。
資金調達の余地、取引先からの安心感、いざという時の耐久力。
そういうものは、節税商品のパンフレットには載っていませんが、会社の寿命には確実に効いてきます。
では、社長は何を基準に役員報酬を決めればよいのか。
私は、次の三つで考えるのが健全だと思います。
一つ目は、会社が営業利益・経常利益を安定して出せているか。
二つ目は、今後3年から5年の資金需要を見込んでも無理がないか。
三つ目は、社長個人の生活費が、会社の体力を削るほど過大になっていないか。
たとえば、売上3億円の会社で、ようやく利益が年間1,000万円出るようになった段階で、社長報酬を急に大きく引き上げると、あっという間に会社の余力はなくなります。
一方で、売上10億円を超え、内部留保も厚く、借入返済にも余裕があり、設備投資計画も明確であれば、社長がしっかり報酬を取ること自体は、何も悪いことではありません。
要は、身の丈と順番です。
ドラッカーは、利益を未来への投資原資と見る考え方を示しましたが、私は中小企業では、利益とは、社長が次の一手を打つ自由を買うものでもある、ということを言いたいです。
会社にお金があれば、採用で先手が打てます。
設備投資もできます。
景気が悪くなっても、慌てずに済みます。
逆に、会社にお金がなければ、社長は毎月の資金繰りに追われ、判断が短期化します。
その状態でよい経営判断は、なかなかできません。
社長が豊かになることは大切です。
私は、社長は報われるべきだと思っています。
ただしそれは、会社を強くした結果として、堂々と取る報酬であってほしいのです。
最初に取るべきは、役員報酬の額ではありません。
最初に作るべきは、経営計画と資金繰り表です。
その上で、社員にいくら払い、会社にいくら残し、社長がいくら取るかを決める。
この順番で考えれば、役員報酬と内部留保と納税は、対立する話ではなくなります。
経営は、結局のところ、社長の価値観が出ます。
たくさん取りたいのか。
会社を大きくしたいのか。
長く続く会社にしたいのか。
承継まで見据えるのか。
答えは、外にはありません。
ただし、その答えを数字に落とさない限り、経営判断にはなりません。
利益が出たときこそ、社長の器量が出ます。
その利益を、自分の取り分として先に見るのか。
会社の未来をつくる原資として見るのか。
この差が、3年後、5年後に、じわじわ効いてきます。




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