
社長の仕事は何か?現場の仕事と経営の仕事を分ける5つの視点
「朝から晩まで働いているのに、会社の将来を考える時間がない」
営業、納品、問い合わせ対応、社員からの相談。中小企業の社長は、いくつもの役割を担っています。
社長の仕事は、会社が継続して顧客に価値を届けられるよう、方向を決め、人・時間・お金を配分することです。現場で働くことも大切ですが、それだけでは会社全体の課題が後回しになります。
今回は、現場の仕事と経営の仕事を分けるために、社長が押さえたい5つの視点を整理します。
現場に入ることと、経営の時間を持つことは両立できる
「社長は現場から離れるべきだ」と言われても、小さな会社では簡単ではありません。社長自身の技術や営業力が、顧客に選ばれる理由になっていることもあるでしょう。
大切なのは、現場にいるかどうかより、何のためにその仕事をしているかです。
例えば、顧客からの苦情に対応するのは、目の前の問題を解決する仕事です。その後に、同じ苦情が起きる原因を調べ、説明方法や確認手順を変えるのは、会社の仕組みを改善する仕事になります。
どちらも必要です。ただ、毎回社長が解決して終わると、次も社長が呼ばれます。現場で得た気づきを、会社全体の判断や仕組みに変える時間を持ちたいところです。
1.方向を決める|誰に、どんな価値を届ける会社なのか
第一の仕事は、会社が力を注ぐ方向を決めることです。
売上を増やしたいからといって、あらゆる顧客、商品、地域へ手を広げると、人も時間も分散します。社員から見ても、何を優先すればよいのか分かりません。
社長が明確にしたいのは、「どの顧客の、どの困りごとを、自社の何で解決するか」です。
例えば、同じ修理サービスでも、安さを求める個人客と、設備の停止時間を短くしたい法人客では、求められる対応が違います。後者を重点にするなら、価格表だけでなく、受付体制や必要部品の在庫、対応できる時間帯まで整える必要があります。これは説明のための一般例です。
私は、中小企業の戦略では、限られた経営資源をどこへ集中するかが重要だと考えています。方向が決まって初めて、社員も日々の行動を選びやすくなります。
今週の営業活動や社長の予定は、その方向に沿っているでしょうか。方針を掲げるだけでなく、実際の時間配分まで確認してください。
2.利益をつくる|忙しさを採算につなげる
第二の仕事は、会社が利益を残せるように、取引条件や仕事の組み合わせを整えることです。
受注が増えても、値引きや手戻りが増えれば、会社の余裕は失われます。売上だけでなく、粗利益の金額と率、そして利益を得るために使った時間を確認する必要があります。
仮定の数値例で考えてみましょう。月商1,000万円、粗利益率30%なら、月の粗利益は300万円です。売上を変えずに粗利益率を31%へ改善できれば、粗利益は310万円となり、10万円増えます。販売費及び一般管理費など、ほかの条件が変わらなければ、営業利益も10万円増えます。
ただし、この計算だけでは改善は進みません。どの商品の価格を見直すのか、どの工程のやり直しを減らすのか、誰がいつ交渉するのかまで決めることが必要です。
社長がすべての見積書を作る必要はありません。しかし、価格設定の基準や、例外的な値引きを認める条件は、経営として整理しておきたいところです。
数字は、社員を責めるために使うものではありません。現場の工夫が利益に結び付くよう、次の行動を決めるために使います。
3.資金を守る|支払った後にいくら残るかを見る
第三の仕事は、会社が支払いを続けられる状態を保つことです。
帳簿上は利益が出ていても、売上代金の入金が先になり、仕入代金や給与の支払いが先行すれば、手元資金は減ります。借入金の元本返済や設備投資なども、損益計算書の利益だけでは把握できません。
経理担当者に振込や記帳を任せても、今後の資金の見通しを確認する責任までなくなるわけではありません。
社長が知りたいのは、現在の預金残高だけでなく、予定している支払いを済ませた後の残高です。入金、給与、仕入代金、借入返済、納税、設備代金を並べ、不足する時期がないか確かめます。
例えば、新しい設備を買うときも、「今、払えるか」に加え、「支払った後、通常の運転資金が足りるか」を確認します。予定した売上に届かなかった場合も考えておけば、投資額や時期を見直す判断ができます。
利益をつくる判断と、資金を守る判断。この二つをつないで考えることが、社長の重要な役割です。
4.人を育てる|自分の判断を、社員が使える形にする
第四の仕事は、社員が自分で判断し、仕事を進められる環境をつくることです。
「自分でやった方が早い」は、その場面では正しいかもしれません。しかし、その判断を毎日繰り返すと、社長に仕事が集中し続けます。
仕事を任せるときは、作業手順だけでなく、目的、期待する品質、本人が決めてよい範囲、相談が必要な条件を共有します。
例えば、納期調整を任せるなら、「顧客と相談してよい」で終わらせず、変更できる範囲や、ほかの案件へ影響する場合の相談先を決めます。最初は一緒に判断し、慣れたら任せる範囲を広げればよいのです。
私は、社長の経験や勘を、対話を通じて言葉にすることが大切だと考えています。「なぜ今回はこの判断をしたのか」を伝えると、社員は似た場面で応用できるようになります。
任せた後の振り返りも欠かせません。結果だけで評価せず、何を見てどう考えたのかを確認する。その積み重ねが、社長個人の経験を会社の力に変えていきます。
5.未来を準備する|今日の受注以外にも時間を使う
第五の仕事は、将来の利益や顧客をつくる準備です。
既存顧客との関係づくり、社員の教育、業務の標準化、新しいサービスの試行。これらは、今日やらなくても目の前の仕事が止まらないため、後回しになりがちです。
しかし、必要になってから着手しても、人材や仕組みはすぐには整いません。
将来への投資は、大きな設備投資だけではありません。月に一度、顧客の困りごとを整理する。よく起きるミスの確認表をつくる。社員と仕事の改善について話す。こうした小さな取り組みも含まれます。
大切なのは、取り組む目的と、途中で確かめる基準を決めることです。新サービスなら、顧客の反応、提供に要する時間、採算を確認し、継続するか、修正するかを判断します。
学んだことも、一つ実行して結果を振り返るところまで進めたいものです。学びを日々の仕事へつなぐことで、会社に新しい選択肢が生まれます。
まずは週に1時間、経営のための予定を入れる
5つすべてを一度に変える必要はありません。まずは、社長自身の1週間の仕事を書き出してみてください。
「自分が担う経営判断」「手順を整えれば任せられる仕事」「減らせる仕事」に分けると、時間の使い方が見えてきます。任せる場合は、引き継ぐ相手の負担や育成時間も含めて調整します。
そのうえで、週に1時間を目安に、経営を考える予定を先に確保します。これは一律の正解ではなく、始めるための提案です。
例えば、最初の20分で利益と資金の変化を確認し、次の20分で現場の原因を整理し、最後の20分で今週の一手を決めます。決めるのは一つでも構いません。「誰が、いつまでに、何をするか」を残し、翌週に確かめます。
数字の確認に迷う方は、関連記事「月次試算表の見方|中小企業の社長が毎月確認すべき5つの数字と活用法」も参考にしてください。
社長の仕事は、今日の会社を動かしながら、明日の会社が続く条件を整えることです。忙しかった一日の終わりに、「今日は会社の何を良くする判断をしたか」と問い直す。その小さな習慣から、経営の時間は生まれてくるのではないでしょうか。
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