月次試算表の見方|中小企業の社長が毎月確認すべき5つの数字と活用法

「税理士から毎月試算表をもらっている。でも、売上と一番下の利益を見るだけで終わっている」
そんな経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
試算表には多くの科目が並びますが、最初からすべてを細かく読む必要はありません。まずは、売上高・粗利益・営業利益・現預金・売掛金の5つを確認してください。
大切なのは、数字の増減から原因を考え、翌月の行動を決めることです。
月次試算表は「今の会社」を知るための資料
試算表は、帳簿に記録した取引を勘定科目ごとに集計した資料です。月次試算表では、会社の収益・費用や、資産・負債などの状況を月ごとに確認できます。
中小企業庁の2025年版『小規模企業白書』でも、毎月の試算表作成、経営状況の把握、資金繰り表の作成といった経営の基礎力を高める必要性が紹介されています。
読む前に、まず表示されている期間を確かめましょう。
売上や利益は「その月だけの数字」と「期首からの累計」を区別します。一方、現預金や売掛金は、基本的に「月末時点の残高」を見ます。当月の売上と前期1年間の売上を比べても、正しい判断はできません。
前年同月と比べれば季節性を踏まえた変化が分かり、計画と比べれば目標との差が見えます。前月比だけで結論を出さないことが大切です。
①売上高|増減を「単価と数量」に分ける
最初に見るのは売上高です。ただし、「先月より増えた」で終わらせないでください。
同じ売上増加でも、値上げが浸透したのか、販売数量が増えたのか、単発の大口受注があったのかで、意味は異なります。
小売業なら「客数×客単価」、受注型の事業なら「受注件数×平均単価」など、自社に合う形に分けて確認します。
例えば、販売単価が上がっていても、既存顧客の注文数量が減っているかもしれません。反対に、数量が増えていても、値引きによって忙しさだけが増している場合もあります。
試算表で変化をつかんだら、販売管理資料で商品別・顧客別の内訳を確かめる。ここまで進めることで、次の営業活動が具体的になります。
②粗利益|売上の増加が利益につながっているか
粗利益は、売上高から売上原価を差し引いた金額です。試算表では「売上総利益」と表示されることもあります。
粗利益=売上高-売上原価粗利益率=粗利益÷売上高×100
粗利益は、販売費及び一般管理費を賄い、営業利益を生み出す源泉です。金額と率をセットで見てください。
次は、説明のための仮定例です。単位は万円、売上等は税抜とします。
項目 | 前月 | 当月 |
売上高 | 1,000 | 1,100 |
売上原価 | 600 | 715 |
粗利益 | 400 | 385 |
粗利益率 | 40% | 35% |
販売費及び一般管理費 | 350 | 350 |
営業利益 | 50 | 35 |
売上は100万円増えています。しかし、粗利益率が5ポイント下がったため、粗利益も営業利益も15万円減りました。
この場合は、仕入価格の上昇、値引き、低粗利商品の販売割合の増加などを調べます。「もっと売る」という目標だけでは、原因に対応できません。
私は、売上の伸びを評価するときにも、それが粗利益の増加につながっているかを重視します。限られた人員と時間を、どの商品や顧客に振り向けるかという判断につながるからです。
なお、月末在庫が反映されていないと、月次の売上原価や粗利益が実態とずれることがあります。製造業や建設業では、仕掛品や未成工事などの扱いも確認が必要です。
③営業利益|本業の収益力を確かめる
営業利益は、粗利益から販売費及び一般管理費を差し引いたものです。
営業利益=粗利益-販売費及び一般管理費
粗利益が増えているのに営業利益が減った場合は、人件費、家賃、広告費などの変化を確認します。ただし、費用が増えたからといって、すぐに削減を決めるべきではありません。
採用や教育、新規顧客獲得のために必要な支出であれば、期待する成果と確認時期を決めます。一時的な支出なのか、今後も続く支出なのかを分けることも重要です。
人件費などが売上原価に含まれる業種では、科目の分類をそろえて比較してください。
また、減価償却費などを決算時だけ計上していると、月次の利益が大きく見えることがあります。毎月の経営判断には、必要な費用を合理的に月次へ反映した数字を使いたいところです。
営業利益だけで返済余力を判断することはできません。支払利息や税金、借入元本返済などは、別途確認します。
④現預金|残高と「これからの支払い」を見る
営業利益が黒字でも、現預金が増えるとは限りません。
売上代金の未回収、在庫の増加、設備投資、借入金の元本返済などによって、利益と現金の動きはずれます。日本政策金融公庫も、この違いを資金繰り管理の重要な論点として解説しています。
月末の現預金を前月末と比べ、増減の理由を確認しましょう。
そのうえで、給与、仕入代金、借入返済、納税など、これからの支払いを資金繰り表に並べます。試算表は過去から現在の状況を示す資料であり、それだけで将来の資金不足までは分かりません。
例えば預金が1,000万円あっても、翌月に大きな納税や設備代金の支払いがあれば、自由に使える余裕は小さくなります。
「いくらあるか」と「支払った後にいくら残るか」を、続けて確認することが大切です。
関連記事:黒字なのにお金がない7つの理由
⑤売掛金|売上が予定どおり入金されているか
売掛金は、売上として計上したものの、まだ受け取っていない代金です。
売上が伸びれば売掛金も増えることがあります。残高が増えたという理由だけで、回収が悪化したとは判断できません。
確認したいのは、契約上の入金予定日を過ぎたものがないか、特定の取引先に残高が集中していないかという点です。
試算表の合計額だけでは分からないため、得意先別の残高と入金予定を確認します。
確認項目 | 次に取る行動 |
支払期日を過ぎている | 請求内容・先方の処理状況を確認する |
売上増加に伴って残高が増えた | 回収までに必要な運転資金を見積もる |
特定の取引先に集中している | 入金遅延が自社に及ぼす影響を確認する |
現金販売が中心の会社では、売掛金の重要度は異なります。クレジットカード等の未入金残高や在庫など、自社で資金が滞留しやすい項目を追加してください。この5つは、確認を始めるための基本です。
月次の確認は「誰が、いつ、何をするか」まで
数字を確認したら、次の順番で整理します。
前年同月や計画と比べ、どこが変わったか。
その原因は何か。数字と現場の両方で確かめる。
来月までに、誰が、何をするか。
翌月、行動と結果を振り返る。
先ほどの仮定例なら、「粗利益率が下がった」で終えず、営業責任者が翌週までに値引きの多い取引を抽出し、社長と価格・条件の見直しを検討するところまで決めます。
試算表は、売上・仕入・経費の計上漏れや預金残高の不一致がないかを確かめ、社内で決めた期限までにまとめます。例えば翌月15日を目標にするなど、自社の業務に合った締め日を設ける方法があります。これは一律のルールではありません。
未確定の見積額は明示して後から修正し、早さと比較できる精度を両立させましょう。
足立知弘の見解|数字と現場の話をつなげる
私は、会計の数字を、次の一手を決めるための道具として使うことが重要だと考えています。
粗利益率が下がったという数字の背景には、顧客の変化、仕入先との交渉、現場の作業の進め方などがあります。社長と社員がそれぞれの気づきを持ち寄ることで、数字だけでは見えなかった原因が分かることもあります。
もちろん、業種や取引条件によって見るべきポイントは異なります。例えば福岡市の中小企業はサービス業が多いので、サービス業としての指標を確認というのも大事です。 ただ、まずはどの業種の会社でも確認すべき基礎となる5つの数字を出発点に、自社に必要な確認項目を絞ってください。
そして、毎月一つでも行動を変える。その積み重ねが、試算表を経営に役立つ資料にしていきます。
まとめ|今月の試算表から、一つの行動を決める
毎月確認したいのは、売上高、粗利益、営業利益、現預金、売掛金です。
売上と利益で稼ぐ力を確かめ、現預金と売掛金で資金の動きを確かめる。前年同月や計画との差を見つけ、原因を調べて次の対応を決めます。
まずは今月の試算表で、気になる変化を一つ選んでみてください。
いちご会計事務所では、経営強化型税務顧問を通じて、経営戦略の立案から実行まで継続的な支援を行っています。数字を経営判断へつなげたい方は、経営強化型税務顧問の考え方・支援方針をご覧ください。
数字を見る時間を、会社の次の一歩を決める時間にしていきましょう。





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