破壊的イノベーションとは?中小企業こそ知っておきたい「強い会社が負ける理由」

「お客様の声を聞く」「商品の品質を高める」「利益率の高い仕事に経営資源を集中する」。
どれも経営としては正しい行動です。
ところが、こうした合理的な経営を続けている会社が、新しい企業や新しいサービスに市場を奪われることがあります。
この現象を考えるうえで重要なのが、クレイトン・クリステンセンが提唱した「破壊的イノベーション」という考え方です。
破壊的イノベーションというと、「ものすごい新技術が登場して業界が一変すること」と思われがちです。しかし、本来の意味は少し違います。
中小企業にとって重要なのは、新技術そのものよりも「顧客が何を評価するかが変わることで、これまでの強みが強みではなくなる可能性がある」という点です。
破壊的イノベーションとは何か
クリステンセンらは、破壊的イノベーションについて、小規模で経営資源の少ない企業が既存企業に挑戦していくプロセスとして説明しています。
典型的なのは、既存企業があまり重視していないローエンド市場や、それまで商品・サービスを利用できなかった人たちを対象とする新市場から始まるケースです。
最初の商品は、既存企業の商品より性能が低いことさえあります。
そのため、既存企業からすると、
「そんな商品をうちのお客様は求めていない」
「品質が低すぎる」
「その市場では利益が出ない」
と見えることがあります。
ところが、新しい商品には「安い」「簡単」「使いやすい」といった別の価値があります。そして、徐々に性能が向上すると、これまで既存企業の商品を購入していた顧客まで選ぶようになります。
ここで初めて、既存企業にとって大きな脅威になります。
重要なのは、単に新しい技術が登場することではありません。「破壊」は一夜にして起こるとは限らず、小さな市場から徐々に進行するプロセスなのです。
なぜ優良企業ほど対応が遅れるのか
この理論のおもしろいところは、既存企業が「経営に失敗したから負ける」とは限らないことです。
むしろ、現在の優良顧客の声を聞き、利益率の高い商品に投資し、既存商品の性能を改善するという合理的な経営判断が、新しい市場への対応を遅らせることがあります。クリステンセンとバウワーが1995年に発表した論文でも、既存顧客や既存市場への資源配分と、破壊的技術への対応との関係が論じられています。
例えば、現在100点の商品を10万円で販売している会社があるとします。
そこに「性能70点、価格3万円」の商品が登場しても、既存顧客が100点を求めているなら、経営者はそれほど脅威を感じないでしょう。
ところが、多くの顧客が実際に必要としている性能が60点程度だったらどうでしょうか。
70点の商品で十分です。
しかも、それが数年後に80点、90点と改善されれば、「高性能だから売れる」という既存企業の前提そのものが崩れる可能性があります。
破壊的イノベーションから教えられる中小企業の戦略
私は、中小企業の経営戦略を考えるときに「大企業と同じ土俵で戦わない」ということを非常に重視しています。
人、資金、ブランド、設備などの経営資源で大企業に勝つのは簡単ではありません。
だからこそ、「もっと高性能にする」「もっと多機能にする」という、強い相手を追いかけて見る必要はありません。
むしろ、
「既存企業が面倒だからやらない仕事はないか」
「価格が合わず、サービスを利用できていない人はいないか」
「もっと簡単でいいから、安く利用したい人はいないか」
という視点が重要です。
大企業にとっては小さすぎる市場でも、中小企業にとっては十分な市場になる可能性があります。
これは私が経営戦略で重視している「戦う場所を選ぶ」という考え方ともつながります。
限られた経営資源しか持たない中小企業は、市場全体を取りにいく必要はありません。顧客、商品、地域、販売方法などを絞り、自社が勝てる場所に資源を集中することが重要です。
そしてそれが、大企業が見逃している新市場を切り開くということもあります。
破壊的イノベーションの考え方からは、中小企業がとるべき戦略や大手に勝つことができるチャンスを見つけることもありうることを教えてくれます。
新しい技術が出たら、すぐ飛びつくべきなのか
あと中小企業の経営において、新しい技術や新しいビジネスモデルが登場するたびに、「これは破壊的イノベーションだ」と考える必要はありません。
クリステンセンら自身も、破壊的イノベーションという言葉が広く使われすぎていることを指摘しています。単に新しい、急成長している、業界に大きな影響を与えているというだけで、すべてが破壊的イノベーションになるわけではありません。
中小企業の場合、新しいものを見つけるたびに大きな投資をしていたら、経営資源が分散してしまいます。
私は、いきなり大きく投資するより、「小さく試して数字を見る」という方法が現実的だと考えています。
新サービスなら一部の顧客だけに提供してみる。新しい販売方法なら地域や商品を限定して試す。そのうえで、売上、粗利益、継続率、作業時間などを確認する。
数字が良ければ投資を増やし、悪ければ撤退する。
「新しいから投資する」のではなく、「仮説を立て、小さく実験し、数字で判断する」ということです。
本当に怖いのは「今のお客様には必要ない」という判断
破壊的イノベーションから中小企業経営者が学ぶべきことは、最新技術を追いかけることではないと私は考えています。
重要なのは、
「今のお客様が求めているもの」と「将来、市場が求めるもの」は同じとは限らない
ということです。
現在の顧客を大切にすることは当然です。
一方で、現在の顧客だけを見ていると、まだ顧客になっていない人や、現在の商品を「高すぎる」「複雑すぎる」「そこまでの性能はいらない」と感じている人を見落とします。
経営者が見るべきなのは、競合企業の現在の商品だけではありません。
市場の片隅で、
「今は大したことがないけれど、急速に良くなっているものはないか」
「今まで買えなかった人が買えるようになっていないか」
「顧客が評価する基準そのものが変わり始めていないか」
を見る必要があります。
強い会社を作るためには、現在の事業を磨くことと同時に、現在の成功を前提にしすぎないことも重要なのです。





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