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本田宗一郎に学ぶ「本質をつかむ」経営

  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

本田宗一郎に学ぶ「本質をつかむ」ということ

先日読んだ野中郁二郎・竹内弘高著の「ワイズカンパニー」の中に、本田宗一郎氏の話が出てきました。

この逸話が紹介された章のテーマは「本質をつかむ」というもので、ワイズリーダーは表面に見えている現象ではなく、その奥にある意味や構造を見抜くことが大事である、という内容でした。

これを読みながら、私は「これは中小企業の経営にそのまま通じる話だな」と思いました。

本田宗一郎氏というと、多くの人は「技術の人」「エンジンの人」「豪快な創業者」という印象を持つと思います。もちろん、それは間違いではありません。

しかし、経営者として本当に学ぶべきところは、単に技術に詳しかったということではないと思います。本田宗一郎氏のすごさは、現場に入り、ものを見て、音を聞き、人の動きを見て、その奥にある本質をつかむ能力のたかさというところにあります。


レーストラックで本質をつかむ

書籍の中で印象に残ったのは、バイクのレーストラックでの逸話です。

本田宗一郎氏は、バイクが試験走行で実際に走っている現場に行き、レーストラックに低くしゃがんで地面に手をつき、ドライバーと同じ目線になるようにするとともに、フルスピードでトラック30周させて、毎回できる限り自分の近くを通るように指示していたといいます。そして耳はエンジンの音、手はバイクの振動を感じ、バイクが量産に入る段階に達しているかどうかの状態をつかんでいたという逸話です。机上のデータや報告書だけではなく、レーストラックで走るバイクの状態を自分の目で見て判断していたというのです。

バイクがどのように加速するのか。コーナーでどう倒れ込むのか。エンジンの音はどうか。乗っている人間がどのように感じているのか。そうしたものを、現場で感じ取っていたのでしょう。

そして驚くことに、本田宗一郎の判断はほとんどいつも正しかったそうです。

私はここに、本質をつかむ経営者の姿が現れているなとおもいました。

バイクの性能は、図面だけでは分かりません。エンジンの数値だけでも分かりません。カタログ上の馬力だけでも分かりません。

実際に走らせてみて、乗ってみて、音を聞いて、振動を感じて、曲がり方を見て、初めて分かることがあります。

これは、経営も同じです。

決算書を見ることは大事です。月次試算表を見ることも大事です。売上、粗利、利益、資金繰りを見ることも大事です。

しかし、それだけでは会社の本当の姿は分かりません。数字は結果です。

原因は、現場にあります。

売上が落ちている。粗利が下がっている。人件費率が上がっている。在庫が増えている。数字だけを見れば、いろいろな問題が見えます。

しかし、本質はその奥にあります。

お客様の需要が変わったのか。営業の動きが鈍くなったのか。商品そのものの魅力が落ちたのか。価格が合わなくなったのか。現場の社員が疲弊しているのか。

ここまで見なければ、本当の改善にはなりません。

本田宗一郎氏がレーストラックでバイクを見ていたように、社長も自社の現場を見なければなりません。会社の本質は、社長室ではなく、現場にあります。


「三つの喜び」にある経営の本質

ホンダには「三つの喜び」という考え方があります。

それは、「作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」というものです。

本田宗一郎氏は、作る人、売る人、買う人の三者が喜ぶことを、ホンダの大事な考え方としていました。

私は、この「三つの喜び」は、経営の本質を非常によく表していると思います。

会社は、利益を出さなければなりません。

これは当然です。

利益がなければ、会社は続きません。社員の給料も払えません。設備投資もできません。

しかし、利益だけを見ていると、経営の本質を見失います。

本当に良い経営とは、誰か一人だけが得をするものではありません。

作る人が誇りを持てる。売る人が自信を持って勧められる。買う人が「買ってよかった」と思える。

この三つがつながったとき、会社は強くなります。

作る人が喜べない商品は、いいものがつくれず長続きしません。売る人が喜べない商品は、お客様に熱が伝わりませんし、なにより売りたいとも思わなくなります。買う人が喜べない商品は、二度と選ばれません。

これは製造業だけの話ではありません。

飲食店であれば、厨房の人が誇りを持って料理を作り、接客する人が自信を持ってお客様に提供し、お客様が「また来たい」と思う。

建設業であれば、職人が納得できる仕事をし、営業担当が胸を張って説明し、施主が「頼んでよかった」と思う。

会計事務所であれば、職員が丁寧に仕事をし、担当者が自信を持って社長に説明し、社長が「相談してよかった」と思う。

このような経営の結果の奥にあるものー本質の部分が経営で大事な部分であり、この本質を見抜く能力が経営者の差になっているのだと思うのです。

また私は、「三つの喜び」はきれいごとではなく、利益の源泉でもあると思っています。

作る人が喜べば、品質が上がります。売る人が喜べば、お客様への伝え方が良くなります。買う人が喜べば、リピートや紹介が生まれます。

その結果として、売上が生まれ、粗利が生まれ、利益が残ります。

つまり、利益はお客様の喜びの結果です。そして、その喜びは、作る人と売る人の喜びにも支えられています。

逆に言えば、社員が疲弊し、営業担当が自信を失い、お客様が不満を持っている会社は、いずれ数字にも表れます。

こういう経営でも短期的には利益が出ることもあります。しかし、長くは続きません。

中小企業は、大企業のように広告費やブランド力で押し切ることはできません。現場で働く人の姿勢、お客様との信頼、商品やサービスの誠実さが、そのまま会社の力になります。

本質をつかむ能力が高かった本田宗一郎は、経営の本質がこの3つであることを看破し、簡単な言葉として残したのでしょう。

本田宗一郎の本質を見抜く能力の高さには、本当に凄さを感じざるを得ません。


社長が見るべきもの

中小企業の社長は、毎日忙しいものです。

資金繰り、採用、営業、現場対応、銀行対応、税務、クレーム、社員の相談。次から次に問題が起こります。

その中で、どうしても目の前の問題処理に追われます。しかし、社長が本当に見るべきものは、「何が起きているか」だけではありません。

なぜ、それが起きているのか。その奥にある原因は何か。社員は何に困っているのか。お客様は何に喜んでいるのか。自社の価値はどこにあるのか。何を守り、何を変えるべきなのか。

これを考えることです。

本田宗一郎氏がレーストラックでバイクの走りを見ながら、単なる故障や性能だけでなく、その奥にある技術の課題や人の感覚をつかもうとしたように、社長も会社の現場から本質をつかまなければなりません。


最後に

経営とは、表面に出ている問題を処理する仕事ではありません。会社の本質を見つめ続ける仕事です。

売上が下がった。利益が出ない。人が辞める。お客様が離れる。資金繰りが苦しい。

これらは、すべて表面に出てきた現象です。大事なのは、その奥に何があるのかを考えることです。

本田宗一郎氏のレーストラックでの逸話は、現場に行き、実物を見て、実際の動きを感じることの大切さを教えてくれます。

経営者にとって本質をつかむとは、難しい理論を知ることではありません。現場を見て、人を見て、数字を見て、お客様を見て、その奥にある「本当に大事なもの」を考え続けることです。

中小企業の社長にこそ、この姿勢が必要なのではないか。本田宗一郎氏の話を読みながら、私はそう考えました。

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