「せっかくだから」が会社を潰すー補助金は“得”じゃない、撤退できない投資の怖さ
- 1 日前
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補助金の話をしていると、社長からよく出る言葉があります。「もらえるなら、やった方が得ですよね?」
気持ちはよく分かります。ただ、補助金は会計的に見ると利益ですが、資金的に見ると“条件付きの資金”です。ここを取り違えると、黒字の会社でも資金繰りが崩れます。
事例:補助金で「宿泊施設をフル改装」した社長のその後
ある地域の社長が、宿泊施設のリニューアルに挑戦しました。「今の時代は映える内装だ」「せっかく補助金があるなら、ここまでやろう」こうして投資額は当初案よりどんどん増え、結果的に“立派な施設”ができました。ところが、実際の経営はこうなりました。
予約は思ったほど伸びない(価格を上げ切れない)
水道光熱費・清掃外注費・修繕費など、ランニングコストが重い
借入返済が始まり、キャッシュが細る
「赤字なら閉めればいい」と思っても、簡単に閉められない
最後の「閉められない」が、補助金案件の怖いところです。
なぜ閉められないのか:撤退すると「財産処分」の壁が来る
補助金で取得した一定額以上の設備や建物は、処分(売却・転用・廃棄など)に制限がかかります。そして、処分する場合は事前承認が必要で、さらに残存簿価相当額または時価を基に、補助金の全部または一部の納付(返還)が必要になることがあります。 (事業再構築補助金)
つまり、
赤字だからやめたい
でも設備を処分すると返還が発生し得る
返還できる現金がない
だから続ける
続けると赤字が積み上がる
という“続けるも地獄、やめるも地獄”の構造になります。
ここで大事なのは、社長が想定する最大リスクが「自己負担分」で止まってしまいがちな点です。実際の最大リスクは、その事業が生む毎月の赤字(上限なし)です。
補助金が投資を膨らませる“心理”
補助金案件を見ていて、私が一番危ないと思うフレーズはこれです。
「せっかくだから、もう一段いい設備に」
「せっかくだから、内装もこだわろう」
「どうせ申請するなら、満額狙おう」
この「せっかくだから」が、投資の膨張を生みます。
投資は、小さく始めて、当たったら拡張するのが本来のセオリーです。ところが補助金が入ると、最初から“完成形”を作りにいってしまう。これは、経営の自由度を自分で削る行為になります。
最近の補助金は「賃上げ要件」も現実的に重い
さらに最近は、補助金の多くで賃上げ・最低賃金対応が前提になっています。中小企業庁も賃上げ・最低賃金対応支援を強く打ち出しています。 (中小企業庁)
例えばIT導入補助金では、事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合、補助金の全部または一部の返還を求める旨の記載があります。 (デジタル化・AI導入補助金2026)
賃上げは、一度上げると下げづらい。「補助金の期間だけ頑張る」が通用しにくいのが、今の設計です。
社長への結論:補助金の前に「撤退計画」を先に作る
私は、補助金を否定したいわけではありません。ただ、申請前にこれだけは決めてほしいです。
補助金が無くても、その投資はやるか?(やらないなら危険信号)
損益分岐点(月いくら売上が要るか)を、ランニングコスト込みで出したか?
うまくいかなかった時に、いつ・どの条件で撤退するかを決めたか?
撤退時に、設備の扱い(処分・転用)で返還リスクが出る可能性を織り込んだか? (事業再構築補助金)
撤退条件を決めずに始める投資は、だいたい“祈りの経営”になります。経営は祈っても数字は変わりません。
稲盛和夫さんの言う「経営は強い意志で決まる」という話がありますが、私はそれをもう少し会計的に言い換えて、こう思っています。
“意志”とは、撤退基準を決める勇気でもある。
補助金を検討している社長は、ぜひ「開始前に撤退を決める」。この順番で考えてみてください。





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