【書籍紹介】生きがいとはなにか?、考えたことがありますか『生きがいについて』神谷美恵子著
私は日常、公認会計士・税理士として企業を相手にした商売をし、また自分自身も事務所を経営するという事をしています。
理論的に物事を考え数字を正確に計算、集計、分析し、報告、申告することを、提供サービスとして仕事をしています。
しかし、私は何のためにこの仕事をしているのでしょうか?
生きるためでしょうか?
確かにそうです。しかし、それであればこの仕事でなくても良いはずです。
公認会計士・税理士として仕事を選び、また経営をしていると、不思議と自分がいきいきとした気持ちを感じることがあります。つらいこともありますが、喜びを感じることもあり、それが良くて続けているのだと思います。
この専門家としての仕事が、私の「生きがい」になっているのかも知れません。
人が人として生きていられる理由とはなにか。
日本人はこれを「生きがい」という言葉で表わしています。
この生きがいについての論考をまとめたのが、神谷美恵子著「生きがいについて」です。
神谷氏は精神科医であり、ハンセン氏病(本書中ではらい病と表記)の収容施設であった愛生園での患者達からのアンケートやインタビューによる心理状態の研究から、生きがいとはなにかということを考えるようになり、本書が執筆されました。
日本ではハンセン氏病への病理的な誤解と差別、偏見により、政府によって日本各地に設置された隔離施設に閉じ込められ、優生保護法という人権無視の憲法違反の法律により、人生を破壊された患者達が多くいました。
この絶望的な状況にいた患者達との接触により、神谷氏は人が生きていく上で見いだす意味とはなにか、ということを考えるようになったようです。
そして、生きがいを感じる心、生きがいを求めるこころ、生きがいを奪い去るもの、そして新しい生きがいの発見ーといった項目を立てながら、様々な角度から生きがい論を体系化しようと論文を書かれています。
本書は、いわば生きがい論についての長編エッセイです。
そのため、なにかこの中から論理立てて「これが生きがいだ」というものが、はっきりわかるものではありません。
しかし我々が、時々つい考えてしまう生きる意味ー自分の生きがいとは何か、ということを様々ヒントを与えてもらえる文章だなと、思って読みました。
私もかつて、大学時代に自分の生きる意味がわからなくなり、いっそ死んだ方がいいのではないかと悩んだ事がありました。
そのとき、出会ったのが「夜と霧」と本書でした。
人は何故生きるのか、また生きることができるのか、生きる意味をどこに見いだしているのか。
だれも飢えることがないくらい豊かになり、生活の便利さが過剰なまでに発達した現代日本社会に生きる者において、なぜか人生の漠然としたむなしさを感じ、問い続けている人もいると思います。
いやむしろ、そのような生きることが生命的肉体的に楽になったが故に、精神的に生きがいについて考えるようになったのかも知れません。この点についても、神谷氏はあとがきなどで本書中に触れています。
生きがいについて考えていた人、また社員への教育として生きがいを語るときの教養として、一度読まれておいてはいかがでしょうか。
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