中小企業の価格設定は「何個売れるか」だけで決めない|限界効用逓減と粗利益の考え方

「値下げすれば、もっと売れるはず」。そう考えて価格を下げたものの、忙しくなっただけで利益が残らなかった。中小企業では、こうしたことが起こります。価格を決める際には、売れる数量に加えて、顧客が追加購入に感じる価値と、販売数量が増えたときの利益を見なければなりません。
結論から言えば、価格は売上が最大になる水準ではなく、必要な利益を確保できる水準で判断すべきです。
なぜ、同じ商品でも2個目は売れにくくなるのか
暑い日に飲む最初のビールには、高い金額を払ってもよいと思うかもしれません。しかし2杯目、3杯目と飲むにつれ、次の1杯に払いたい金額は下がっていきます。
追加の1単位から得られる満足が次第に小さくなることを、経済学では「限界効用逓減」と呼びます。商品の品質が変わったという意味ではありません。同じ顧客にとって、次の1個が解決する必要性が小さくなるということです。
この視点は、価格設定に役立ちます。顧客が1個目には300円を払っても、2個目には200円しか払いたくないなら、価格を200円に下げたとき、初めて買う人だけでなく、追加購入する人も増える可能性があります。
値下げで売上が増えても、利益が増えるとは限らない
例として出せば、10人におにぎりを「いくらなら買うか」というのを考えてみましょう。人によって支払ってもよい金額が異なり、同じ人でも2個目以降の金額は下がります。その回答を積み上げると、価格と販売数量の関係が見えてきます。
販売価格 | 販売数量 | 売上高 |
500円 | 4個 | 2,000円 |
250円 | 13個 | 3,250円 |
150円 | 23個 | 3,450円 |
100円 | 30個 | 3,000円 |
この例では、売上高が最も大きいのは150円です。しかし、それが最も儲かる価格とは限りません。
仮に、おにぎり1個を追加で販売するたびに、材料費や包装費などが80円かかるとします。各価格の売上高から、その数量に応じた変動費を引いてみましょう。
販売価格 | 販売数量 | 売上高 | 変動費合計 | 限界利益 |
500円 | 4個 | 2,000円 | 320円 | 1,680円 |
250円 | 13個 | 3,250円 | 1,040円 | 2,210円 |
150円 | 23個 | 3,450円 | 1,840円 | 1,610円 |
100円 | 30個 | 3,000円 | 2,400円 | 600円 |
この仮定では、売上高は150円が最大ですが、限界利益は250円が最大です。150円に値下げすると10個多く売れる一方、既に買っていた顧客にも安い価格を適用するため、全体として残るお金が減ります。
「いくらなら売れるか」から「どの顧客に、何を売るか」へ
価格の話においては、限界効用逓減の部分だけ考えても足りません。価格をいくらにするかは一面的な分析だけでは、決められないからです。
例えば価格の受け止め方は顧客ごとに違います。資料のおにぎりの例でも、1個目に500円を払ってよい人がいる一方、130円程度までしか払いたくない人もいます。
全員に同じ値下げをする前に、誰がどの価値を評価していて、価値=価格を打倒とかんがえているかを、経営者は検討する必要があります。
例でいえば急ぎの納品、少量対応、相談しやすさ、購入後の支援に価値を感じる顧客なら、単に安い商品を探している顧客とは選ぶ理由が違います。
価格を決めるには、顧客が求める価値を明確にし、それを商品や提供方法に組み込むことが重要です。
追加購入を促したい場合も、同じものを増やす方法だけではありません。1個目とは異なる用途を満たす組み合わせ商品や、購入後の困りごとを解決するサービスなら、新たな価値を提示できます。ただし、追加したサービスに人手がかかりすぎれば、利益は残りません。商品ごと、顧客ごとに採算を確かめる必要があります。
顧客の予算は、他の支出とも競合している
消費者は、複数の商品の「支払額に対して得られる追加的な満足」を比較して予算を配分する考えももって、検討しています。
経営者向けのサービスに置き換えると、顧問料の増額を検討する社長は、他の税理士との比較だけをしているわけではありません。「その予算を広告、採用、システム投資に使う場合と比べて、何が改善するか」も考えます。
例えば経営支援サービスを追加するなら、面談回数や資料の枚数を増やす説明だけでは十分ではないでしょう。資金繰りの見通しが立つ、商品別の採算が分かる、値上げの判断ができる。経営者が次に下せる判断を示して初めて、追加料金の価値が伝わります。
私が価格を検討するときに重視すること
私は、売上だけを見て値下げの成否を判断すべきではないと考えています。まず商品別・顧客別に、売上から販売に伴う費用を引いて、いくら残っているかを確認します。そのうえで、価格を変えた場合に必要な販売数量を試算します。
価格を下げて数量を追うのか、価格を維持して選ばれる理由を強くするのか。答えは商品と顧客によって異なります。ただし、判断の順番は共通しています。
顧客が感じる価値 → 支払ってもよい価格 → 見込める販売数量 → 変動費 → 残る利益。
この順番で数字を並べると、「売れる価格」と「経営を支える価格」の違いが見えてきます。
まとめ
限界効用逓減は、顧客が同じ商品を追加で買うとき、次の1個に感じる価値が変わることを教えてくれます。値下げで販売数量が増える可能性はありますが、利益まで増えるとは限りません。
まずは主力商品について、現在の価格、販売数量、1単位当たりの変動費を並べてみてください。次に、値上げ・値下げそれぞれの場合に、何個売れば現在の限界利益を維持できるかを計算します。価格を感覚だけで決めないための、最初の一歩になります。
参考資料
中小企業基盤整備機構 J-Net21「価格設定の考え方」
中小企業庁「2024年版 中小企業白書」価格転嫁に関する節
価格の見直しを検討しているものの、商品別・顧客別にどこで利益が残っているか分からない場合は、まず採算を整理するところから始めましょう。いちご会計事務所では、経営判断に使える数字の整理を支援しています。





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